コバレ気分

『心からのもてなしに出会えた海陽亭』

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小樽に着き、ランチタイムぎりぎりで飛び込んだのは、伊藤博文をはじめとする歴代の政財界の重鎮、芸能界、文人の方々が愛し続けた料亭「海陽亭」でした。

1時半を過ぎていたため、お客は私一人。
歴史的な出来事や行事があった亭内を説明を受けながら案内され、北海道で最古とされる天井のガラスランプ、著名な方々の書や掛け軸、調度品などを拝見した後、三日月の間に通され食事を頂く。
一流料亭の座敷で、床の間を背に、開かれた障子越しに入ってくる木漏れ日のやわらかい光に包まれているだけでも、十分満ち足りた気持ちになる。

いただいたのは、お勧めの蟹のボール揚げ。毛蟹の甲羅に、カニ肉と野菜、きのこを加えて揚げたもの。毛蟹の風味と野菜のうまみが重なり、揚げ物ながらあっさりとしていて、奥行きのある旨みでした。

食事を堪能した後、石原裕次郎資料室に通され、思い出の品々を拝見。
そこで『三代目女将が語る 海陽亭』という本に目にし、買おうとしたところ、
「どうぞお好きな表紙を選んでください」と言われ、意味が分からず尋ねると、本の装丁に先代の女将の帯地を使っているので模様が全て違うとのこと。
「今日は運良く女将が居りますので、女将にサインをもらったらいかがですか?」と言われ、是非にとお願いした。

奥から女将が出て来て挨拶を交わしたが、さすがに一流料亭の女将だけあって、物腰の柔らかさの中にも貫禄がある。
店をたたむ料亭が増える中、経営の難しい料亭経営をしているのは、三代目女将の宮松よし子さん。
77歳とは誰にも想像することも出来ない程の若々しさで、ご自分の商売への思いを熱く語り、幼い時から我が家の様に出入りしていた石原裕次郎の事を思い出深げに話される。
一見のランチ客にこのように丁寧にもてなしてくれるとは、まさに老舗料亭ならではのこと。

海陽亭で出会った人は3人。
女将も含め皆60代、70代の女性ばかり。
「うちは店も100年ですが、従業員も骨董品なんです」と、笑って話す帳場の女性に、
「写真を取らせてください」と頼むと、「あらっ美人だから?」と乙女のように、はにかむ。

そう言えば、亭内を案内してくれた女性が、大広間の展示物を私が拝見している間、部屋の隅にある木箱のような腰掛にヒョイと座った時の仕草も粋で愛らしかった。

長年、料亭という人をもてなすことを仕事としてきた女性たち。
仕草も表情も自然で、そして心も美しかった。

( 平成17年8月取材 久井信望 )

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“コバレ”とはちょっとした『ハレ(非日常)』のこと。
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